村治佳織 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
村治佳織 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 ずっと旅をしていた村治さんが、コロナ禍で、演奏旅行ができなくなった。「今できることを」と熟考して生まれたのは、時間と空間を旅することができるベストアルバムだった。

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前編/村治佳織 “女子高生ギタリスト”の肩書に違和感があったころ】より続く

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 12月1日に、7年ぶりのベストアルバム「ミュージック・ギフト・トゥ」が発売される。コロナ禍でなければ、オリジナルアルバムを出す予定だった時期。イギリスのチームともやりとりしながら、今できることを模索し、「コロナ禍だからこそ『村治佳織ならこの一枚!』と自信を持ってお薦めできるベスト盤をリリースしよう」という結論に辿り着いた。

「演奏会で取り上げた曲の中から、自分も好きで、お客様の顔がほころんだ実感のある曲を中心に選びました。1曲目の『愛はきらめきの中に』は、かなり前にレコーディングしたものですが、最近はあまり弾いていなかった。友人知人が、YouTubeで私の以前の番組を観て、『これがいい』とリクエストしてくれて。今年に入ってから、コンサートの1曲目で取り上げるようになった曲です」

 世界中が閉塞感を感じている時期だからこそ、いい気持ちになる曲を選びたい。大事な人にプレゼントしてもらえるようなアルバムになったらいい。そんな思いで、曲を選ぶ楽しさに熱中しながら作っていったという。村治さんのホームページには、「旅するギタリスト」とあるが、まさに旅をしている気分になれる。

 2019年に上梓したエッセー本『いつのまにか、ギターと』には、村治さんの半生が、音楽家らしく、軽快なテンポで綴られている。病気になったときの葛藤も、すべてをポジティブに転換し、離婚の経験についても、「バツイチではなくマルイチ」と表現している。「若い頃よりも表現の幅は広がったと思いますか?」と質問すると、「大病を経験して、自然と若い頃はできなかったスキルが身につきました」と茶目っ気たっぷりに答えた。

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