東京国際映画祭で上映され「予想もつかない結末」と話題を呼んだ『皮膚を売った男』。世界的芸術家ヴィム・デルボアの作品に影響を受けたハニア監督がオリジナル脚本を書いた。第93回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネート。
2011年シリア。サム(ヤヤ・マヘイニ)は、恋人へのプロポーズの言葉が革命を求めた国家反逆罪とみなされ投獄される。しかし逃亡し、レバノンへと亡命する。1年後、難民となったサムは、偶然出会った芸術家ジェフリー(ケーン・デ・ボーウ)からある提案を受ける。それは大金と自由を手に入れる代わりに、背中にビザのタトゥーを施し彼自身が“アート作品”になることだった。
美術館に展示され、世界を自由に行き来できるようになったサムは、国境を越え恋人に会いに行くが、思いもよらない事態が次々と巻き起こり、やがて精神的に追い詰められていく。世界から注目される存在となった“作品サム”を待ち受ける運命とは──。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★
ただの恋するおバカちゃんだったはずの青年が、激動の運命をたどることになって政治や難民問題まで絡んでくる。背中を売って品物になった彼には高値がついても、人間としての彼の価値はないも同然、という皮肉な悲劇。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
難民の背中をアートにするという発想だけが見所ではない。方向感覚を失う冒頭の鏡のトリックが入り口になり、劇中でも鏡を多用し、現実とは一線を画す批評性と遊び心に満ちた世界を構築し、エンタメにまとめあげている。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★
タイトルのインパクトと想像していた展開と違っていて良い意味で裏切られた。こうなったら余計に読めないストーリー。残酷で美しい。美しくて残酷。心に重いものを抱えながらエンタメ色に惹かれます。すべては愛のため。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★★
難民の自由とは何か? 人の尊厳とは? アートはどこまで許されるのか?などといろいろと考えさせられる。悲劇であり、ロマンスであり、風刺劇でもある。チュニジアの監督が作ったと考えるとラストを含めて実に興味深い。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2021年11月26日号