瀬戸内寂聴さん(撮影/写真部・東川哲也)
瀬戸内寂聴さん(撮影/写真部・東川哲也)

 11月11日に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さん。寂聴さんを知る人は、表と裏のない自然体の人柄に惹かれていた。写真家篠山紀信さんは言う。

【写真】これは貴重!剃髪前の若かりしころの瀬戸内さんの一枚

「作家には、威厳があるように撮ってもらいたいという人がけっこういるんです。反対に、威張っているイメージがあるから、そんなふうに撮ってほしくないという人もいます。寂聴さんは、そのどちらでもない。自然に笑っているだけ。『自分は人と違う才能の持ち主だ』と思われたいという気持ちはまったく感じませんでした」

篠山紀信さん
篠山紀信さん

 自身の戦争体験から、平和運動に積極的に参加。特に、日本がおかしな方向に向かっていると感じたときは積極的に闘った。

 12年には関西電力大飯原発の再稼働に反対し、作家の澤地久枝さんやジャーナリストの鎌田慧さんと一緒にハンガーストライキを決行した。鎌田さんはこう振り返る。

鎌田慧さん
鎌田慧さん

「ハンストの日は雨が降っていたんですが、瀬戸内さんがタクシーで到着してちょうど席に着く前に、雨がやんだんです。すると、瀬戸内さんは手のひらを出して『雨なんか、ひょいっ』と投げ捨てるようにおどけてみせたんですよね。それがとても印象的でした」

 後日に開かれた脱原発の集会では、ちょっとしたハプニングもあった。

「壇上に変な男女二人が突然現れて演説を始めて、その二人はすぐに降ろされたんです。その後しばらくしてから瀬戸内さんから電話があって『二人が会いに来たので話しましたよ。女の尻にしかれた男だったわねえ』と。連絡なしに寂庵を訪れたらしいですが、そういう人たちにもちゃんと応対したそうです」(鎌田さん)

 寂聴さんの法話には、芸能界のファンも多かった。俳優の松原智恵子さんも、その一人だ。

松原智恵子さん
松原智恵子さん

「新幹線でお見掛けしてご挨拶をしたら、快く受け入れていただいて話し込んでしまったのが出会いでした。法話は素晴らしくためになるお話なのに、楽しくて面白い。撮影がお休みのときに寂庵を訪ねたらとても喜んでくださり、お茶やお菓子をいただいたうえ、法話のとき『今日はお客様が来てくださっています』と紹介までしていただいた。お会いするたびに前以上に好きになってしまう。そんな方でした」

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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