古賀茂明氏
古賀茂明氏

 一方、岸田氏は、憲法改正に前のめりだ。敵基地攻撃能力の検討に踏み込み、防衛費GDP比2%の自民党公約も了承した。彼のイメージと矛盾するように見えるが、これは、本人の信念や哲学に基づくものではなく、安倍氏や、党内タカ派にいろいろ言われて「聞く力」を発揮し、なるほどと思ってしまったようにも見える。それほど本気ではないという見方だ。

 だが、仮に本気でなくても、こういう人は非常に危ない。最近の中国の行動は日本人の危機感を煽る。国民にも嫌中意識が高まる中で、岸田氏は、中国が危ないと言われれば、「確かに」となり、だから敵基地攻撃能力をと言われて、「そうですね」と応じる。台湾有事が起きて、米国に次は日本が危ない、一緒に戦おうと言われれば、「もちろん」と、喜んで米中戦争に参加する。国内で反対運動が起きれば、「なるほど」と思うが、時すでに遅し。自分では何も決められず、最後はもちろん「力が強い」米国に押し切られる。

 聞く力の上に、自分で考える力、そして決める力、さらに説得する力が揃ってこそ有能な指導者だ。岸田総理には聞く力しかない。ソフトムードに安心していると、いつの間にか戦争への道を進んでいるかもしれない。「聞く力」に騙されず、しっかり監視する必要がある。


週刊朝日  2021年11月26日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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