仲村トオル [撮影/小黒冴夏、ヘア/YAMA、メイク/藤原玲子]
仲村トオル [撮影/小黒冴夏、ヘア/YAMA、メイク/藤原玲子]

 19歳で、映画「ビー・バップ・ハイスクール」のオーディションに合格し、俳優デビューしたのが20歳。仲村トオルさんがこの世界に入ってもう36年が経つ。

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「俳優としてはど素人の状態でありながら、出演させていただいた作品が次々とヒットして、すごくいいスタートを切れました。でも、当時は一生この仕事を続けられるとは思っていなかったんです。大学を卒業するのと同じぐらいのタイミングで、『ビー・バップ~』のオーディションで僕を発掘してくださった那須博之監督の『新宿純愛物語』という映画に主演したんですが、たまたま関西で立ち寄った劇場の館主さんに『あんたの今度の映画、入らんなぁ。平日の昼間来てみ、寝込むで』と言われたことがあったんです。『あれ? 今までと同じぐらい一生懸命やったんだけどな?』と悔しかった。『負け戦のまま撤退するわけにはいかない』と思って、『次は勝たないと』と心に誓った記憶があります。そのとき初めて、『俳優を続けよう』と思いました」

 その後、オファーがあるたびに、「面白そうだ」「やってみたい」と思って、一つひとつの作品と向き合い続け、今に至る。

「なので、今からだって転職の可能性はゼロじゃないですよ。いや、ほぼゼロなんですけど」と言って、悪戯っぽく笑った。

 映画は自分の俳優としてのホームグラウンドだと思っていた時期に、ドラマの仕事のほうが多くなったときは、少しひねくれたことがある。映画雑誌のインタビューで、「もう、カメラの中にフィルムが入っていようが、ビデオが入っていようがどっちでもいいし、それがスクリーンでかかろうが、ブラウン管で映されようが、俳優がカメラの前でやることは変わらない。この先、コンピューター上で作品が公開されて、そこで観てもらえるんだったら、それでもいい」と語ったことがあるらしい。

「大好きな映画に振り向いてもらえないと、大好きな映画に愛されている同業者たちに、嫉妬していた時期だと思うんです。僕はデビューから数年間、フィルムで撮影する映画やドラマの現場しか知らなかったので、ずっと『フィルムにしか映らないものがある』と信じていた。それが、ビデオカメラでドラマを作っている人たちの中にも、すごく志が高くて、努力していて、力のある魅力的な人たちがいっぱいいることに気づき始めて……。そのうち舞台もやるようになったら、舞台でしかできないことがあって、劇場でしか感じられない感動があると知った。おかげで、『あんまり振り向いてくれなくても泣かないよ。俺には舞台もドラマもあるから』っていうひねくれ方になりました(笑)」

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