小説家・長薗安浩氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『在宅ひとり死のススメ』(上野千鶴子著、文春新書 880円・税込み)を取り上げる。

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『おひとりさまの老後』がベストセラーになったのは2007年、著者の上野千鶴子は58歳だった。この本を機に独居老人のイメージはずいぶん明るくなり、たとえ子どもがいたとしても、同居するよりしない方が気楽でいいとさえ常識は変わりつつあるようだ。

 そうなると、次に残された課題はどうしても、「一人で死ぬこと」となる。<わたしは私利私欲のために研究をしている>と公言し、一人暮らしを続けてきた上野にとって、これはまさに自分の問題でもある。

 そこで上野は、「孤独死」に対して「在宅ひとり死」という新しい言葉をつくり、この『在宅ひとり死のススメ』を著した。関連するデータと現場や専門家への取材に基づき、住みなれた自宅で最期を迎えるための方法を紹介し、<ガンなら楽勝。認知症でもOKです>と断言してみせる。

 なぜ上野はここまで太鼓判を押せるのか? その根拠には、00年4月にスタートした介護保険がある。20年間の蓄積によって現場の経験値とスキルが向上し、<手が届かなかった可能性を現実にしてきた>のだと上野は主張する。だから、3年に1回の改定ごとにこの保険の使い勝手が悪くなっていることに、烈しく警鐘を鳴らす。「介護の社会化」を支えてきた介護保険制度の内容と問題点について書かれた最終章は、それだけでも一読に値すると私は思う。なんせもう20年もすれば、日本では、一人暮らしが全世帯の4割を占めるのだから。

 認知症の人の「在宅ひとり死」には疑問も残るが、いつも社会の変容の先頭に立ってきた上野が掲げる松明だと思えば、そのメッセージは、やはり明るい。

週刊朝日  2021年11月12日号