延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は早稲田大学国際文学館の開館について。

【写真】撮影に応じる村上春樹さんたち

*  *  *

 コロンビア大学の学園紛争をテーマにしたアメリカンニューシネマ『いちご白書』に描かれた学生集会のようだった。

 早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)開館に先立つ記者会見には、書斎に座って頬杖をつくのイラストの村上Tシャツや、春樹さんを何年も追っているというアメリカ人映像作家(ジーンズに長髪のヒッピー風)も集まり、なんだかとても自由な雰囲気だった。

 そこに春樹さんが「こんにちは」と現れ、開口一番、「当時は『大学解体』というスローガンで戦ったわけだけど、結局こっちが解体されちゃった。『自由な大学を』の理想は間違ってなかったけど、やり方がまずかった。この村上ライブラリーは学生たちがアイデアを出し合い、自由でフレッシュなスポットになるといいなと思います」

 村上ライブラリーは69年に建てられた、演劇博物館斜め向かいの建物を隈研吾さんがリノベートしたものだ。52年前の7月、学生に占拠されていた旧4号館地下ホールで山下洋輔さんがジャズライブをやった。大隈講堂からピアノを担いできたひとりが中上健次さん(中上さんは早稲田の学生ではなかった!)。セクトを超えて民青、革マル、黒ヘル、中核がその演奏に聴き入ったと伝えられている。春樹さんは、当時のように「山下さんにまたガンガン弾いてほしい」とエールを送った。

 世界で1千万部以上読まれている恋愛小説『ノルウェイの森』は、春樹さんが在籍中だった早大を舞台にしている。彼がどう過ごしたか、多くの記者が身を乗り出した。

「『都の西北』って野球の応援歌ですかって田中(愛治)総長に聞いたら校歌ですって(笑)。あ、そうなんだって。でも、早稲田は良い学生ではなくても受け入れてくれるところがあり、割に気が楽だったです」

著者プロフィールを見る
延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

延江浩の記事一覧はこちら
次のページ