村井理子(むらい・りこ)/1970年、静岡県生まれ。翻訳者、エッセイスト。著書に『犬ニモマケズ』『兄の終い』など。訳書に『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』など多数。(撮影/霜越春樹)
村井理子(むらい・りこ)/1970年、静岡県生まれ。翻訳者、エッセイスト。著書に『犬ニモマケズ』『兄の終い』など。訳書に『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』など多数。(撮影/霜越春樹)

 翻訳家の村井理子さんは47歳だった3年半前、突然体調を崩して病院に駆け込んだ。これまで多少の体調不良は更年期障害によるものと思っていたが、原因は心臓にあることが判明する。

 病院で「僧帽弁閉鎖不全症」(心臓弁膜症)と診断され、合計で3カ月に及ぶ闘病生活を過ごした。『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社、1540円・税込み)は手術が決まった日、歩くこともままならなかった村井さんが「ひとりで入院し、ひとりで歩いて、元気に退院すること」を目標に掲げ、それを達成するまでの“挑戦の物語”だ。

 実は村井さんが心臓病で入院するのは2回目で、7歳の時に開胸手術を受けた。本書では、その時に病院で出会った同い年の女の子“ふみちゃん”や、小学校で同じクラスだった“橋本くん”など、交流のあった人たちのエピソードも語られる。それらの話は細部まで克明に描かれていて、今起こっているかのようなライブ感がある。それから40年余り経つが、村井さんは当時と今を比べて、自分自身は大きく変わったとは感じていないという。

「私は、根本はずっと子どものままで、45歳くらいになってようやく大人になれたという意識があります。またそうした少女時代を思い出したのは、入院して、久しぶりに子どものポジションになったこともあったのかなと思います」

 周囲の患者さんのほとんどは自分より年上で、それだけに甘えられる立場になれたことは、とても新鮮な経験だった。病院で知り合ったおじいさんに「人生これからやで」と声をかけられたことは、闘病生活を乗り切る大きな力になった。

 本書には「闘病記」にある暗い印象はなく、個室の豪華さや、利尿剤で一気に体重が減ったことなどに興奮するお茶目さに加えて、文体の小気味良さもあり、むしろ楽しみながら読み進められるものになっている。

「私は翻訳家ということもあって、文章の読みやすさやリズム、また最後まで読んでもらえるように工夫することを常に意識します。今回それがいい方向に作用したと思います」

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