ガブリエル・レンジ監督(c)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
ガブリエル・レンジ監督(c)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC

“地球に落ちて来た男”デヴィッド・ボウイ。映画「スターダスト」は、神格化された彼ではなく、初渡米時の逸話と、下積み時代に光を当てている。遺族が楽曲使用を許可せず、なおさら内容が気になる同作について、ガブリエル・レンジ監督に話を聞いた。

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 たとえば2018年に大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソディ」がクイーンのヒット曲に乗せバンドの足跡とサクセスストーリーを語り、カラオケ感覚の満足感を観客にもたらしたとしたら、「スターダスト」は全く異なる体験となる伝記映画だ。

映画「スターダスト」の場面(c)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
映画「スターダスト」の場面(c)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC

 ボウイのヒット曲を同作で聴くことはない。1971年に焦点を定め、初全米ツアーを予定していたボウイのカラフルな体験とアーティストとしての葛藤をロードムービーという形で描く。彼を音楽やアートへと導いた、愛する兄テリーの存在、精神疾患への恐怖、知られざるエピソードをひもとき、自己を模索する若きボウイの心の奥底に迫る。

 ボウイを演じるのは、ミュージシャンとしても実力を誇るジョニー・フリンだ。

──原案はどこから?

「イギー・ポップとボウイのベルリン滞在をテーマにした映画を考え脚本を書いたんだが、製作が難航していた。そんなとき、本作のプロデューサーと出会い、企画を提案され興味をそそられ監督を引き受けたんだ。脚本も心理的な側面や兄との関係などを加え、ふくらませ書き直した」

──ボウイの音楽が使用できないことをどう克服しようと考えましたか?

「楽曲が使えないことが、逆に製作者としての解放感につながった。ヒット曲を観客に聴かせる必要もなく、彼の頭の中で起こっていることに集中できた。内面的な旅に目を向けることで、ボウイというアーティストがいかに形成されたのかを描くことに専念できた。音楽を除くことで心理面を探る空間ができたわけだ」

──その手法とは?

「重きを置いたのは、彼が71年に初渡米した時期、さまざまなアーティストのカバーをライブで演奏したという事実だ。ヤードバーズやルー・リード、ジャック・ブレルなどを披露していて、実に興味深かった。帽子をいろいろかぶってみて、どれが一番似合うか試しているような感じだ。当時の彼が表現者として、どんな段階にいたかを物語っているように思えたんだ」

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