※写真はイメージです (GettyImages)
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 最期まで満足のいく生活を送るために──。在宅療養者にとって、生活維持の要となるのが「訪問診療」と「訪問介護」だ。生活の質を落とさないために、受けることのできる医療・介護サービスや、使える制度は何があるのか。徹底取材した。

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「ここ数年、在宅診療の患者数は右肩上がりです。特に昨年からは、新型コロナの影響で入院すると家族との面会が制限されることもあり、在宅を選ぶ方が増えていますね」

 そう語るのは、東京都新宿区を中心に訪問診療を行う「あけぼの診療所」院長の下山祐人医師だ。あけぼの診療所では、毎月500人前後を診察。月30~40人の新規患者がいる一方で、20人前後を看取っている。同院では、がん、心臓病、腎臓病、認知症など、さまざまな疾病を診療しているが、最も多いのががん患者で、全体の約半数を占めるという。

「例えば、すい臓がん末期の70代女性は、入院して化学療法を数回行いましたが、効果が得られなかったため在宅療養に切り替えました。われわれが初めて訪問したとき、女性はがん悪液質が進行していて、食事をとることも歩くことも困難な状態でした。そこで投薬のほか中心静脈栄養(栄養点滴)を行ったところ、状態が改善。亡くなる直前まで、ご家族や友人と話したり、自分で身辺整理をする時間が作れたといった例があります」

 また、大腸がん末期で在宅療養に切り替えた70代後半の男性は、「入院していたときは、抗がん剤の副作用や点滴で“食べる楽しみ”を奪われることがつらかった」という。そこで副作用が減るように薬剤の量を調整し、好物のアイスやヨーグルトを食べられるようになったそうだ。

「在宅診療では、『ご本人が最期まで満足のいく生活を送れるようにすること』を最優先に考えます。完治や延命のための治療はもちろん必要ですが、一方で残された時間でできることの選択肢を狭めてしまうこともある。患者さんのQOL(生活の質)を高めながら、ご自身やご家族が看取りに向き合う時間をもてるようにすることも、在宅医療の大切な役割だと感じます」

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