映画「浜の朝日の嘘つきどもと」で、福島が舞台のつぶれかけの映画館「朝日座」の支配人を演じた落語家・柳家喬太郎さん。会社勤めなら定年を意識する年頃だが、芸人としては「これから」だと言う。

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柳家喬太郎(撮影/写真部・加藤夏子)
柳家喬太郎(撮影/写真部・加藤夏子)

前編/“文化をなくしたくない”に共鳴 喬太郎が「つぶれかけ映画館の支配人役」】より続く

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映画「浜の朝日の嘘つきどもと」は、シネスイッチ銀座ほか全国公開中 (c)2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会
映画「浜の朝日の嘘つきどもと」は、シネスイッチ銀座ほか全国公開中 (c)2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

 福島が舞台ということで、テーマの一つは、震災からの復興だ。でも、それを前面に押し出しすぎず、「朝日座」の復活と重ねて、苦労を乗り越えながら徐々に日常を取り戻し、明るくたくましく生きている人たちの姿が描かれている。朝日座復活の陰には、高畑充希さん演じる茂木莉子の提案したクラウドファンディングの成功があった。

「以前、主演させていただいた映画『スプリング、ハズ、カム』もクラファンによって生まれた映画でした。今回は、映画の中でクラファンが使われていますけど、今は寄席業界がクラファンを募っている時代です。落語協会の理事会でその話になったとき、役員はおじさん、おじいさんばっかりなので、僕もネットは詳しくないけれど、いちおう勉強して説明しました。でも、蓋を開けてみたら、うちの師匠(柳家さん喬さん)のほうが詳しかった(笑)。『落語文化をなくしたくない』とお金を出してくださる人たちのありがたみは、寄席のクラファンをやるようになったことで痛切に感じています」

 現在57歳。会社勤めなら、そろそろ定年を意識する年齢だが、「芸人としてはまだまだ道半ばです。むしろこれからじゃないですかね」と自分に言い聞かせるように口にした。

「ただ、芸の道に精進することは、長いトンネルの中にいるようで、いくつになっても苦しさが伴います。だから、年齢で区切られる定年という制度のことを、正直、“羨ましいなあ”なんて思うこともなくはない。だったら引退を宣言すればいいんだけれど、自ら引退する人はほとんどいない。やっぱりそれだけ、みんな落語の魅力に取り憑かれているんだと思います」

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