※写真はイメージです (GettyImages)
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 作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「ビッグコミックオリジナル」。

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 マンガ雑誌の頁をペラペラ繰っていくのって楽しいな。心が和むかと思えば、ときにピピッと緊張感を覚えたり。この境地に辿り着くまでに、意外と時間がかかった。ガキのころから、マンガはマニアでしたから、ついじっくり眺めちゃって。

 隔週誌「ビッグコミックオリジナル」(小学館)には、毎号15本前後のマンガが載るが、バラエティーに富んだ誌面構成で飽きない。従来は硬直した歴史観で描かれてきた題材を、人間ドラマとして展開する「昭和天皇物語」から、深夜ドラマでもおなじみの「深夜食堂」、題名からしてインパクトあるヒューマンな作風の「前科者」など、どれも読みごたえがある。

 ドラマ化といえば、「ミワさんなりすます」の連載スタート時に、俺がテレビ局のプロデューサーなら、即座にアプローチするんだがと書いたね。最新の9月5日号は、その「ミワさん」が巻頭カラーだ。映画マニアで29歳、フリーターの久保田ミワが、憧れの国際的俳優、八海崇の豪邸に家政婦として採用される。引っ込み思案な子が、美羽さくらという採用予定者に「なりすます」という暴挙を犯してしまうほど、映画には人を狂わせるほどの魅力があるのだ。

 成瀬巳喜男の「流れる」や筒井康隆原作の“七瀬シリーズ”でも、家政婦たちはその家の秘密を望まずとも垣間見てしまう。私生活を一切明かさない八海の心の秘密まで、ミワは知ることになるのか。女優は多部未華子なら、完璧に演じてくれそう。

 コラムも充実している。「路上飲み」の楽しみは「空間と一体化する感覚」と書く藤木TDCのセンスが冴えてる。安価で、裏通りや、S‌F的光景が広がる再開発現場までどこでも飲める。コロナ収束後は東京に最も似合うスタイルになるって、説得力あるね。

週刊朝日  2021年9月17日号