木村草太 (撮影/大野洋介)
木村草太 (撮影/大野洋介)
木村草太さん(左)と林真理子さん (撮影/大野洋介)
木村草太さん(左)と林真理子さん (撮影/大野洋介)

 中学生時代から法律に興味を持ち、現在は憲法学者として活躍する木村草太さん。そんな法律のプロが作家・林真理子さんの作品に注目した理由とは?

【林真理子さんとのツーショット写真はこちら】

「差別と偏見の違い」とは? 憲法学者・木村草太がずばり解説】より続く

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林:学生のときに弁護士を目指して、司法試験を受けようと思ったことはないんですか?

木村:大学の1、2年生のころは、裁判官志望だったので、受験したことはあるんですけど、司法試験の勉強よりも、学者になる勉強のほうが向いていると思って、こちらの道に来ました。

林:官僚になろうとは思わなかったのですか。「給料は安いけど、自分で法律をつくるのがすごくおもしろい」とおっしゃる方もいますけど。

木村:その気持ちはわかりますが、私は『小説8050』で描かれているような、一人で戦ったり、少数で戦ったりする人を支えるのが好きなんです。それと、ある種の枠の中で、生き生きとすることが好きで、枠そのものをつくるような構想力のあるタイプではないので、官僚や政治家には向いていないというのが、自己分析ですね。

林:枠の中で、というのは?

木村:たとえば私の趣味である将棋なら、将棋のルールの中でしか指せないですよね。法律も、法律の枠組みの中でしか語れない。けれども、その中で創造性を発揮するというタイプの行動が好きなんですよね。そういう意味では憲法学は自分に向いてるのかなと思います。

林:なるほど、そうなんですか。

木村:『小説8050』は本当に素晴らしかったです。日本の社会派の映画や小説は、社会派というにしては、制度をぜんぜん使わず、ファンタジーになっていることが多いと思うんですね。たとえば社会制度に頼らず、すごく貧しい生活をしている人が出てくる小説を読むと、なんでこの人は生活保護の受給を検討しないんだろう、と思うんです。

林:はい、私もそう思います。

木村:いろいろな物語で描かれる苦境も、この人の抱える問題なら、弁護士や裁判所に頼れるのに、と思うことがあるんですが、『8050』は制度をきちんと使い倒していて、現実味があって素晴らしいと思いました。

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