黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、人間ドックの結果について。

*  *  *

 人間ドックの結果説明を聞くために病院へ行った。メタボ、変わらず。血圧、高め。便潜血なし。潜血があると大腸内視鏡検査を受けて、ポリープがあれば採る必要があり、その検査を受けるために下剤を二リットルも飲み、四、五時間もかけて大腸をからっぽにするのがたいそうつらい。今回は潜血がなかったのでホッとしたが、胃の内視鏡検査にひっかかった。採取した胃の組織の一部を病理検査したところ、疑わしいものがある、と医師がいう。

「それって、なんですか。悪性ですか、良性ですか」
「その説明は消化器科の医師に訊いてください」
「先週、消化器科のH先生を受診して、細胞の免疫染色をすると聞いたんですけどね」
「その結果をH先生からお聞きください」

 こういうところが大病院の面倒なところで、人間ドックの結果説明では詳細を聞くことができない。わたしはその場で消化器科を予約した。

 翌日、主治医でもあるH先生を受診した。

「胃腺腫です」と先生はいう。「内視鏡で切除しましょ。胃腺腫をほっておくと四十パーセントの確率で癌化するから」

 こんどは拡大内視鏡で胃の中を精査し、切除する部位と範囲を検討するといった。

「精査のついでに切ってもらうわけにはいかんのですか」
「それは無理ですわ」

 術式はESDだと先生はいい、デスクトップのパソコンに画像──胃壁の断面図と解説を出してくれた。

《ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)。
 病変した粘膜下に液状の薬剤を注入し、病変部を浮かせた状態にして周囲の粘膜ごと病変部を切除し、止血する。その後、切除した組織の病理検査をして完了する》

「なるほど。これがESDね」ほぼ、理解した。
「黒川さんの腺腫は五ミリやから、そう急ぐことはないけど、切除しといたら安心でしょ」
「おれは急ぎます。気持ちのわるいもんはちゃっちゃととってください」
「術後は出血します。経過観察で一週間ほど入院してもらいます」

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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