田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 米国がアフガニスタンから撤退し、タリバンは再び権力を掌握した。バイデン政権の米軍撤退を延期しなかった背景には何があったのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が解説する。

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 米軍がアフガニスタンから撤退すると、瞬く間にタリバンがアフガニスタンの主要都市を占拠し、ガニ大統領は国外に脱出せざるを得なくなった。

 かつて、タリバン政権だった時代には、アフガニスタンの女性たちは、教育を受けることも、職に就くこともできなかった。

 イスラム原理主義とはそういうものらしい。そのタリバンが、ふたたび政権を握ることになる。

 しかし、バイデン大統領は、米軍がアフガニスタンから撤退すれば、このようになることは認識していたはずである。それにもかかわらず、なぜ撤退したのか。

 この米軍のアフガニスタンからの撤退が、当然ながら今、世界の関心事となっている。

 だが、米国の世論は米軍のアフガニスタンからの撤退を求めていて、トランプ前大統領もアフガニスタンからの撤退を決意していた。

 アフガニスタンに米軍を派遣し続けて、タリバン勢力を抑え込み続けることに、米国は218兆円の経費を使い、2千数百人の米兵が亡くなっている。

 いわば、アフガニスタンに米軍を派遣し続けることで、米国民にそれだけの犠牲を強いてきたわけだ。犠牲を強いながら、アフガニスタンに展望らしい展望を見いだせない。だから、トランプ前大統領もアフガニスタンからの撤退を決意したのである。

 ただし、トランプ前大統領は、アフガニスタン政府とタリバンとの間の和平合意を前提としていた。

 しかし、タリバンはアフガニスタン政府との交渉を拒んで、和平協議は難航していた。今年7月の初めには、協議の破綻(はたん)は明らかになっていたのだが、バイデン政権は撤退を延期せずに、8月末の完全撤退を強行しようとしたのである。

 いわば、アフガニスタンは米国に見捨てられたのである。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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