春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「金メダル」。

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 なんだかんだでオリンピックを観ています。そもそも熱心にスポーツを見るほうじゃないので、野次馬的にあーだこーだ言いながら。ほどよく五輪との距離を保っています。

 柔道の阿部兄妹。同じ日に揃って金メダル。日程もあるから偶然も重なっての快挙です。まず妹の決勝戦。見守る兄ちゃん。妹が金メダル取ったときのプレッシャーたるや。私が兄貴だったら応援しつつも「詩……銀……メダルくらいにしといてくれんかなぁ……」って、正直思ってしまうかもしれん。いや、思わないかな……一二三の立場になってみなきゃわからんな。でも思っちゃいそうだ。悪かったよ。小さいよ、俺は。

 スケートボードの堀米選手。22歳でアメリカに豪邸を持ってるらしい、スゴイ。今、喫茶店でこれを書いてるのだが隣の席に座ったオバさん2人がずーっと「スケボーの子、豪邸」って言ってるから本当なんでしょう。「うちの息子にもやらせよう」って言ってる。近所の公園にニワカスケーターが増えそうだ。階段の手すりを滑ったり、素人がいきなりやると絶対ケガするぞ。近所の整形外科が繁盛したり、駅前のドラッグストアで湿布が売れたり、少なからず特需はありそうだけど、心配なのは公園の裏に住んでる高橋さん(仮)だ。公園の平和を守ることに命をかけているお爺さん。夜、遅くまでスケボーをのりまわす無軌道な若者に血圧が上がること必至。どうかお身体には気をつけてほしい。高橋さん(仮)になんかあったら堀米くんのせいだぞ。お詫びに高橋さん(仮)が会長を務める敬老会の余興にぜひ来てあげてほしい、堀米くん。

 ソフトボール決勝を観ようとしたら、真裏の東京MXテレビで『空手バカ一代』を再放送してました。アメリカ人レスラー軍団と主人公・飛鳥拳がリング上で睨み合い。「かかってきやがれ、ジャップ!」だのハードなセリフが飛び交います。「次回『ジャップを殺せ!』にご期待ください」と予告があり、番組が終わりました。日米戦の裏で流すところがさすがMX。物騒な予告のおかげで気持ちアゲアゲで観戦できたよ。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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