桐谷健太 [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/石崎達也、スタイリスト/岡井雄介]
桐谷健太 [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/石崎達也、スタイリスト/岡井雄介]
さっと移動してパッとポーズを決める。移動中も笑顔を絶やさず、自然に空気を和ませる [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/石崎達也、スタイリスト/岡井雄介]
さっと移動してパッとポーズを決める。移動中も笑顔を絶やさず、自然に空気を和ませる [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/石崎達也、スタイリスト/岡井雄介]

 20代の初め、「役者として大成したい!」という野心を胸に目をギラギラとさせていた頃、「往年の三船敏郎みたいだ」と言われたことがある。そう話すのは、俳優の桐谷健太さんだ。勉強のためにと、古い日本映画を片っ端から観ていた時期。黒澤明監督作品で、三船敏郎が登場するたびに、勝手に親近感を抱いていた。

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「高校のときからよく、『目がギラギラしてる』とは言われていました(笑)。この世界に最初に憧れたのは5歳のときで、『グーニーズ』という映画を観たことがきっかけだったんですが、そのとき本気で、『この四角い世界に入ってみたい!』と思った。中学生のときにはもう『役者になるしかない!』と思い込んでいたし、高校のときはとにかく目立てば誰かが見つけてくれるだろうと。当時は、早く世の中に出たくて、自分を試したくて必死だった。だからギラついていたんじゃないですか」

 子供の頃の純粋な夢がかなったのは、23歳のときだった。2003年、井筒和幸監督の「ゲロッパ!」で映画デビューを果たした桐谷さんだが、「そこから少なくとも10年は、芝居をしながら、力を抜くことがまったくできていなかった気がします」と振り返る。

「どんな仕事も同じだと思うんですが、いろんなやり方を覚えるまで、最初は必死にならざるを得ないじゃないですか。僕も年齢を重ねてきて力を抜く大切さみたいなのをわかってきたけれど、それがわからないうちは、ずいぶんもがいていました。海の中にどぶんと落ちると、浮上したいけど、どうしても苦しいから、力んでもがいて、無駄に手足をばたつかせてしまう。本当は、力を抜いたほうがラクに浮上できるのに、それがわからないんです」

 昔を思い出すように少し遠い目をしてそう言ったあと、「でも完全には溺れずに今こうして俳優として生きられているので、もがいた時期を経験したことは良かったなとすごく感じています」と続けた。

 運命論者ではないが、芝居を続けていく中で、「点だと思っていたことが、線になった」と思うことは少なくない。桐谷さんは今年、12年ぶりに舞台に出演する。黒澤明監督が初めて三船敏郎とタッグを組んだ映画「醉いどれ天使」。黒澤明が植草圭之助と手がけた原作を、蓬莱竜太さんが脚色し、三池崇史監督が演出するのだ。桐谷さんが演じるのは、三船敏郎が演じた戦後の闇市を牛耳る若きヤクザ・松永。そのオファーがきたとき、不思議な縁を感じた。

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