田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
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 ジャーナリストの田原総一朗氏は、菅首相が東京五輪中止に踏み切れなかった理由を明かす。

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 7月23日に東京五輪が開幕したが、今年の春以後、新聞やテレビの世論調査では、国民の8割近くが、東京五輪の中止や延期を求めていた。それにもかかわらず、菅義偉内閣は無観客ということで東京五輪開催に踏み切ったのである。

 安倍晋三前首相が去年、東京五輪を1年延期して開催すると決めていた。だから、その安倍前首相から政権を譲り受けた菅首相としては、いかに国民の多くが強く求めても、中止、あるいは再延期という選択肢はなかったのである。

 実は、去年4月に安倍首相が緊急事態宣言を発出したとき、私は安倍首相に「ポスト安倍」について再確認した。その1年くらい前から、安倍首相は菅官房長官が面倒くさくなって、ポスト安倍を岸田文雄氏に委ねようとしているのではないか、と自民党の幹部や、安倍首相を支持している政治評論家たちの間でささやかれ始めていたからである。

 だが、そのことを問うと、「私の気持ちは、2年前に田原さんに会ったときからまったく変わっていない」と言い切った。

 その夜、私が菅氏に電話で、「ポスト安倍はあなただよ」と伝えると、「本当ですか」と驚いたような口調で問い返した。その翌日、二階俊博氏にそのことを話すと、「それがよいと思う」と答えた。

 こうして安倍首相から譲り受けた菅氏としては、繰り返しになるが、東京五輪の開催中止という選択肢はなかったのである。

 だが、私が信頼する有識者たちはいずれも、そんな菅首相を全否定に近いかたちで批判している。

 たとえば7月28日の毎日新聞の「論点」で、ノンフィクション作家の柳田邦男氏が、次のように強調している。

<核心を突く質問に対しては、ひとつ覚えの決まり文句だけを繰り返し、関係のない陳述でごまかす、いわゆる「ご飯論法」で逃げるのは、安倍晋三前首相の常とう手段。菅首相はみごとに、その手段を引き継いでいる。安倍・菅時代における政治の言語崩壊は惨たんたるものだ。東京五輪も、その「ご飯論法」で正当化されたのだ>

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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