そこで本題ですが、とりわけ2000年代以降、どうにも時代が進んでいない感じがするのは私だけでしょうか。言い方を変えれば、2000年代以降には「過去」がない。もちろん世代も世相も目まぐるしく変化しているにもかかわらず、ここ20年を振り返ると、なんとなく似たような光景や価値観が、漫然と続いているように思えてなりません。嵐も大谷翔平も同じ時代にいる感覚。

 例えば80年代における70年代は、れっきとした「過去」でした。世間は70年代を問答無用に「古い」と見做し、「今」を無我夢中で突き進みました。やがて90年代になると、あっという間に80年代は「遺産」となり、流行や人気者もガラッと変わりました。そして、少し時間はかかったものの、90年代も今や立派な「過去」です。しかし、そこから先はひたすら「今」が続いているだけ。これは単に私が歳を取ったせいではないはず。現にアイドルも俳優も、私のようなタレントも、昔ではあり得ないぐらい寿命や賞味期限が長くなっています。本来ならば「過去」になっているべきものが「今」として存在し続けている世の中。一方で重宝されるのは、70年代や80年代といった、すでに完成されて失敗のない「過去」のコンテンツばかりです。

『ドライフラワー』とはよく言ったものですが、この曲が10年後、立派な「過去」になっていることを切に願います。ちなみに優里さんは男性だそうです。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年7月23日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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