志麻:父が公務員、母が看護師の、いたってふつうの家庭です。7人家族だったので、外食することはほとんどなかったけれど、母は料理が好きで、料理本を読んではいろんな料理をつくっていました。田舎なので、山で栗を拾って栗ごはんをつくったり、つくしをとってきて佃煮をつくったり、魚を釣って焼いて食べたり、遊びながら、すごくいい食の体験をして育ったなと思っています。

林:山口の田舎で育った女の子が初めて食べて感動したフレンチって、なんだったんですか。

志麻:私、高校を卒業して、辻調(辻調理師専門学校)に通って初めてフレンチを食べたんですよ。すべてが初めて食べるもので、「ああ、おいしいなあ」と驚いて。

林:どうしてフレンチに行こうと思ったんですか。

志麻:フランス料理は、家庭で食べる料理もあればフレンチレストランで食べるような高級な料理もあって、幅が広いんです。何百年も前から食べられているようなものが、今も変わらず食べられている、そういう奥深さにもひかれて。だから、入学してすぐ「フレンチをやろう」と決めました。

林:辻調は日本全国にいろんな調理師さんを配しているエリート校で、「料理界の東大」って広告にありましたが、2年制でしたっけ。

志麻:1年目は必修で、2年目は選択ですが、選択肢にフランス校があったので、2年目はそこに。

林:リヨンですね。

志麻:はい。リヨンで半年間研修しました。

林:フランス語は?

志麻:フランス校に行くと決めてすぐ、アルバイトしながら勉強を始めました。留学するころには調理用語はほとんどわかっていたので、言葉で苦労することはあまりありませんでした。

林:それはすごいですよ。

志麻:当時はとにかくフランスのことを知りたくて、怖いもの知らずでした。

林:フランス校を出たあとに、あちらの三つ星で働いたんですか。

志麻:はい。性格とか技術から総合的に判断して、先生が研修先を割り当ててくれるんですけど、三つ星にはほんの一握りの人しか行けないので、割り当てられて自分がいちばんびっくりしました。

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