夏休み明け、一行日記を先生に提出し、認め印を押され、それが教室の壁に貼り出される。他人の日記を見るのはなかなか楽しいものだ。「海へ行った」「お祭りが楽しかった」などありきたりなモノが並ぶなか、役人(M君)が貸してくれた黒塗りコピーの原本もあるではないか。

 7/31 「蝉時雨 焼そば香る 晦日かな」
 8/15 「白球に 反戦誓い 盆参り」
 8/20 「広き背の 祖父、我がために 蚊やり焚き」

 など、さほど上手くもなく子どもらしくもない五七五で統一された句集のような一行日記。そういえば役人(M君)には定年したばかりのお爺さんがいた。過分にそのお爺さんの影がチラつくが、達筆でギッシリ書き込んである役人(M君)の一行日記の評価はサンカクだった。

 M君は今、本当に役人になっているそうだ。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

週刊朝日  2021年7月16日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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