映画「ねばぎば 新世界」は、10日から新宿K’s cinemaほか全国順次公開 (c)YUDAI UENISHI
映画「ねばぎば 新世界」は、10日から新宿K’s cinemaほか全国順次公開 (c)YUDAI UENISHI
赤井英和(撮影/写真部・高橋奈緒)
赤井英和(撮影/写真部・高橋奈緒)

 地元大阪が舞台の映画「ねばぎば 新世界」(上西雄大監督)で主演を演じるなど、いまや俳優として活躍する赤井英和さん。しかし、もともとはプロボクサーとして一世風靡。当時を振り返った。

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前編/赤井英和が語る地元・大阪「祖母の葬儀に香典10円で行列ができた」】より続く

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 目の前にいる赤井さんは、にこやかで穏やかで、加えてシャイな印象もある。30年以上前のこととはいえ、“浪速のロッキー”と呼ばれた荒々しい面影はない。「なぜボクシングにそんなにのめり込んだのですか?」と質問すると、淡々としたテンポではあるけれど、とても熱っぽい口調で、ボクシング愛を語った。

「あのね、私は高校で4年間ボクシングをやってました。高校は普通3年やのに僕は4年行きました。大学の1回生でプロになったときは、20歳。トレーナーをやっていた方に、『プロにならしてください』と直談判したら、当時僕のことを応援してくださった病院の先生が、赤井くんがデビューするならジムを作ろうと、長屋の1階に手作りのリングをロープで囲って作ってくれました。ほんまに小さいリングで、選手は私一人だけ。トレーナーの方は、それだけでは食べていけないので、トレーナーやりながらタクシーの運転手で生計を立てました」

 プロデビューすることが決まると、トレーナーは、赤井さんに暗示をかけた。

「ボクシングの魅力はKOや。相手を倒してこそお客さんを惹きつける。あんたは、アマチュア時代はストレート打って離れての、ヒットアンドアウェーのアウトボクサーやったけど、プロになったらとにかく倒しにいけ」

 素直な赤井さんは、KOのためのトレーニングに励み、試合に臨んだ。最初の3戦は3勝3KO。4戦目は新人王の決勝だった。相手は、後に日本チャンピオンにもなった尾崎富士雄さん。当時から名選手の誉れは高かった。

「そしたらまたトレーナーが、私に暗示をかけはるんです。相手は腰を痛めてロードワークができないから、ボディーばっかり攻めていけ、と。ほんで、ボディーを攻める練習して、3ラウンドKOで倒したんですが、顔面を打つときは、ガードしながら打てるのに、ボディー攻撃は打ったら当たるけど、こっちもたくさんパンチを食らってしまう。ボクシングで大切なのは、パンチ力にテクニック、スピードやディフェンスとか、いろんな要素があるんですけど、一番大切なのは“気持ち”です。尾崎は、テクニックもスピードも全部俺より優っていたけど、俺は、気持ちだけは負けへんかった。私の中にあるのは、いつも気持ちだけです」

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