「俳優業って、なんの保証もないですからね。先のことはとにかく不確かなので、“やっていける、大丈夫”という感覚は、正直わからない。常にいつ仕事がなくなるんだろうか、怖いと思いながらやっています」

 でも、長く続けていると、一度やった人がまた声をかけてくれることはあるのではないだろうか。

「以前、パルコ・プロデュースの『いやおうなしに』という舞台に出演したことがあるんです。古田新太さん、小泉今日子さん、田口トモロヲさん、高畑充希ちゃん……と、出演者がものすごく豪華だったんですが、そのとき僕が複数演じた役がどれも結構激しい役で。地方でいじめられて整形した先生、パチンコをやっている最中に子供を死なせた父親、あとは人間じゃなくてコンパスとか……(笑)。登場人物は揃いも揃って無茶苦茶なのに、そこに流れる音楽はすごくカッコいいんです。高畑充希ちゃんの早替えの時間稼ぎに僕がコントをやるハメになって、毎日ネタを変えるように言われて、正直、登演拒否になりそうだったことも(苦笑)。今やっている舞台『目頭を押さえた』は、『いやおうなしに』からのご縁で、とても感謝しています」

(菊地陽子 構成/長沢明)

山中崇(やまなか・たかし)/1978年生まれ。東京都出身。代表作は映画「松ヶ根乱射事件」(山下敦弘監督・2007年)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13~14年)、「深夜食堂」シリーズなど。近年の公開作は「あの頃。」(今泉力哉監督)、「あのこは貴族」(岨手由貴子監督)、「泣く子はいねぇが」(佐藤快磨監督)、「おらおらでひとりいぐも」(沖田修一監督)、「宇宙でいちばんあかるい屋根」(藤井道人監督)。

>>【後編/「割と空っぽな」名脇役・山中崇「未熟って言葉はすごくいいな」】へ続く

週刊朝日  2021年7月9日号より抜粋