前出の栗本さんは、多くの利用者の声を聞いてオンライン葬儀の可能性を感じたという。

 東京で80歳の男性が亡くなったが、岩手県に住む姉は足が悪く、コロナ禍もあいまって葬儀には行けないと思っていた。故人の息子は「コロナだから来なくていいよ。オンラインがあるから」。葬儀では画面に映る弟の姿を見られたことに泣いて喜んだという。

「今はこんなに便利な時代なんですか。弟の姿、顔も見られないと思っていたけど、最後に会えてうれしかった」

 一方で、オンライン葬儀には課題もある。大切な人を失い、深い悲しみを抱えて生きづらくなっている状態(グリーフ)の支援を目指す日本グリーフ専門士協会の代表理事で、公認心理師の井手敏郎さんはこう話す。

「人は触れたり抱きしめたりすることで、涙が出たり、感情が呼び起こされたりします。オンラインにはそれがかないにくい側面がある。抱えた感情を押し殺してしまうことにもなりかねません」

 故人の骨ばった手を握り、その人生に思いをはせる。お骨を拾うことで改めて故人の死を受け止める。そういった“実体験”ができない。その結果、感情を整理できず、精神や身体にひずみが出ることがあるという。

「悲しみをため込んで、日々のやる気がまったく出なかったり、食欲がないままだったり。コロナ禍でただでさえ抑え込まれた環境にあるので、そうした不調が数カ月、数年にわたって出てくる可能性があります」

 放っておけば、うつなど心の病に陥りかねない。井手さんは「悲しみを自分の心にとどめないこと」と話す。

「自分のネガティブな思いにも耳を傾けてくれるのは誰か。いつでもつながり、語れる環境づくりをしてほしい。オンラインで感情を吐露できる可能性もある。人に話せないなら、文章で思いをつづることが悲しみを手放すきっかけにもなります」

 葬送の方法はさまざまでも、故人を思う気持ちはみな同じ。自分に合った道を選択したい。(本誌・秦正理)

週刊朝日  2021年7月2日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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