とはいえ、遺産の分け方も相続税の額も、相続人同士の考えがまとまらないと決まらない。

「何より大事なのが、遺言書があるかどうか。故人が残した財産の目録や、問題のない分け方がきちんと示されていれば相続もスムーズに進みやすい。遺言書がなければ相続人同士の遺産分割協議が必要です」(同)

 注意したいのは、遺言書が見つかった場合にすぐに開封しないこと。たとえば本人が書いた「自筆証書遺言」の場合、そのまま家庭裁判所に持っていき確認してもらう「検認」の手続きが必要だ。相続に詳しい小堀球美子弁護士は言う。

「検認の手続きの際、申立人は遺言書を持って裁判所に行く必要があります。郵送は認められていません。ただし、相続人全員が行く必要はない」

 遺産分割協議も、「密」を避けたければ1カ所に集まらなくてもいいという。

「協議の結果をまとめた遺産分割協議書は、あらかじめ相談してつくったものを相続人の間で回覧し、それぞれが署名、押印したものでも問題ない。各自が署名、押印した協議書を持ち寄る形でも認められます。必ずしも、一枚にまとめなくてもいい」(小堀弁護士)

 とはいえ、離れたやり取りになるだけに、ほかの相続人の反応は見えにくいし、文書での受け答えが冷たい印象を与えることも。折に触れて、故人への思いやほかの相続人への気遣いを伝えるようにしたい。

 協議がどうしてもまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判に委ねられる。ここでも、コロナの対応は進んでいる。

「家庭裁判所の民事調停は対策のため電話会議が増えています。ただ家裁では、地方裁判所では認められているウェブ会議は使われていません」(同)

 財産を引き継いだら名義変更が必要だ。その手続きは意外と大きな負担だ。

 例えば、銀行の預金口座(遺言書がない場合)や不動産の手続きには、故人が生まれてから亡くなるまで一生分の戸籍謄本のほか、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などたくさんの書類をそろえなければならない。結婚や転籍などで本籍地を移すケースは多く、一つの役所だけで集められるとは限らない。本籍地が何度も変わっていれば、過去の謄本をたどっていく作業も必要だ。

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