よめはんはわたしから離れることもなく、知らん顔で買い物をすませた。ポーターのわたしは膨らんだエコバッグを両手に提げて車のトランクに載せる。これも市井の老夫婦として違和感がない。

 家に帰り、マキを仕事部屋からキッチンにおろして、買ってきたスイカをいっしょに食った。

“ピッピキピー”マキはスイカの種が大好きだ。

 ついでにいうと、キッチンの流し台の水栓が去年の暮れごろから水漏れしている。めんどうだから放っておいたが、よめはんから三十回くらい、修理せよとの下命を受けて、ようやくパッキンを用意し、屋外の元栓をとめて流し台の水栓を外したら、機構がやたら複雑で、なにもせずに元にもどした。よめはんにはパッキンを交換したと報告したが、たぶん信じていない。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年7月2日号

著者プロフィールを見る
黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

黒川博行の記事一覧はこちら