まして阪神には08年の新井のトラウマがあるはず。だから、今年の球界の一番の注目株という意味で選出があるかも、と注目されていた佐藤が侍メンバーに選ばれなかったとき、球団周辺に流れた安堵感も想像に難くない。そのときに聞かれた言葉が冒頭で紹介したものなのだ。

「選ばれんで良かった」
「ホンマ良かった」

 率直に、こう言った関係者もいたらしい。

 と、ここまで取材したところで何と、梅野隆太郎捕手が“侍”に緊急招集される、というニュースが入ってきた。代表メンバー入りしたものの15日の西武戦で左足を負傷した広島の会沢翼捕手が辞退したため、その代役として指名されたのだ。

「かつての新井のように、もし五輪で梅野が故障でもしたら……そりゃ、いきなり優勝に黄色ランプ点灯、ですよ。2番手捕手の坂本との差は大きいですからね」(前出デスク)

 実は阪神球団は元々、佐藤より梅野が招集されるかどうか、ハラハラしていたという。

「観念してた、と言っていいかもしれません。12球団の捕手を見渡せば、梅野の代表入りは自然ですからね。それが落選ってことでホッとしたのもつかの間、緊急招集でしょ。球団としては『仕方ない』という反応でしたけど、本音は『五輪期間は休ませたかった』ですよ。梅野は、捕手としてはもちろん、チャンスに強い打撃でも貢献度が高い選手なので、疲労をためないようにと矢野監督は春先、梅野に積極的休養を与えてました。それだけチームのキーマンだってことで、休めるか、侍メンバーとして戦うのかでは大違いですからね」(別の阪神担当記者)

 年季の入った虎ファンの“らしい”強がりが聞こえてくる。

「セ・リーグを盛り上げなアカンからなぁ。ぶっちぎりの優勝なんてつまらんで。そんなんは原さんの巨人がやったらええ話や。タイガースらしゅうない。梅野が、五輪から無事に帰ってきてくれるか……そんなふうに気をもむことまで含めて楽しませてもらうから、これでエエんや」

 これで優勝だ、と断言しようとしたら、オチをつけるような、この展開。いかにも阪神タイガース“らしい”と言ったら怒られるかな。(渡辺勘郎)

週刊朝日  2021年7月2日号