「老年期にうつになりやすい人の特徴が、“かくあるべし”という思考を強く持った人です」(和田さん)

 もともと「こうでなければならない」という思考パターンを持ちがちな人が、老いによる衰えによって、自分自身の要求水準についていけなくなり、その結果うつを引き起こすという流れだ。

 中でも男性に多く見られるというのが、退職して社会的な役割から解かれたとき、ふさぎ込みがちになるという例。「退職して稼げなくなった」→「稼げなくなったら終わりだ」→「俺はなんてダメなんだ」と大きな挫折感に襲われ、うつになる例が少なくないという。

「真面目でルールを守るタイプの人が、うつになる例が多い。自分自身で作った“かくあるべし”思考から外れたときに、すごく自責的になってしまう。つまり、年をとった自分、ダメな自分を受け入れられない。弱みを見せたくない気質の人であればさらに厄介で、それこそ重症化してしまうケースが多い」(同)

 うつ病は、本人が自覚しづらいため、自ら病院に相談に来るケースはほとんどなく、家族ら周囲の後押しがあって、やっと出向くという例がほとんどだという。治療は、社会的孤立やストレスなど、改善できる可能性を探る「環境調整」、助言に移る前にしっかりと話を聞く「精神療法」、そして抗うつ剤を主体とした「薬物療法」の三つが主な柱だ。あわせて日光を浴びるために外を30分程度散歩する、たんぱく質を積極的に取るなど、日常生活で気を付けたいポイントもある。

「言いたいことも言えずうつうつとしていたという人も多いので、まずはじっくり話を聞きます。環境を変えるのには時間がかかるので、改善策を探りながら、並行して薬物療法を試す例がほとんど。適切な対応と治療で多くの方で改善が見られます」(安野さん)

 ただ、高齢者は精神科への偏見が強い傾向にあり、うつ病の薬というと「飲みたくない」という例もしばしば見られるという。睡眠導入剤は抵抗なく飲む人でも、うつ病の薬というと途端に敬遠されがちだ。

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