北上を続ける象たちも、いつも暮らしている森林とは違い、ここは人間たちの暮らす都市であることも知っているのだろう。その上でなおかつ旅を続けているのだ。
今もまだ、象牙の乱獲のために犠牲になる象が少なくはないというのに、彼らは人間たちを恐れてはいない。
食べ物で方向転換させ、保護区にもどそうという試みもされたがひたすらな歩みは止まらない。
これは何を意味しているのだろうか。
人間は、動物たちがそれぞれの営みをしていた場所を侵蝕し、とりあげた。そのため、動物は食物を求めてさまよわざるを得ない状況になったのだ。
日本でも熊や猪、野生動物が街に出没する。インドのムンバイでは、野生のヒョウが深夜、鶏を襲いに街へ出てくるという。象の群れも動物たちの反逆の一つではないかと思えるのだ。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『明日死んでもいいための44のレッスン』ほか多数
※週刊朝日 2021年6月25日号