独身女性が妊娠を通告したことで同僚たちは戸惑いを見せるが、私生活についてあからさまな質問をするわけにもいかず、「柴田さん」は雑用を免除され、労働時間も短縮される。まだ明るいうちにスーパーに寄って帰れる生活が実現し、彼女はつぶやく。「妊娠というのは本当に贅沢、本当に孤独」。

 日本の会社で日常的に起こっている男女差別が可視化されるが、読者としては「柴田さん」の「嘘」がいつばれるのか、ハラハラしながら読み進めることになる。タオルなどをお腹に入れて人の目をごまかしていたが、ついに産休に入り……。

 あっと驚く語りのどんでん返しがあり、読者の想像力を最後まで引きつける仕掛けを思いついたこの新人作家に賞賛を送りたい。

「柴田さん」のトリックと、開き直ったクールな生き方は興奮を誘う。その一方で、子育てをする女性たちのストレスや、育児がワンオペになりがちな日本社会の問題点は、マタニティビクスで「柴田さん」が知り合うママたちの言葉となって噴出している。大卒正社員の「柴田さん」が会社を手玉にとる話というだけではなく、母親目線の現実もしっかりと描かれているのだ。

 2冊を並べてみると、発想だけでなく、社会の状況や人々の意識の違いにも驚かされる。ちなみに「ジェンダーギャップ指数2021」でアイスランドは堂々の12年連続世界1位。日本はG7で最下位の120位である。

週刊朝日  2021年6月25日号