中学生の頃に読んだ山本周五郎『赤ひげ診療譚』が夏川さんの医師としての原点だ。

「自分の生活も大事ですが、ときにはそれを犠牲にしても闘うときがある。コロナ診療を通して、そういう立派なドクターが意外と周りにたくさんいることに気づきました」

 小説からも過酷な状況が伝わってくるが、経済より医療が大事というつもりはなく、様々な分野で奮闘する人の一側面として読んでほしいという。

 変異株が広がり、夏川さんのいる病院でも40代、50代の重症患者が急増している。

「本当にきつい。ワクチン接種が進めば少し落ち着いてくるとは思いますが、正直なところ、そこまで持ちこたえられるかどうか……」

 今こそ読みたい一冊だ。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2021年6月18日号