今、『ベーカリープロデューサー』なる人物が話題だ。最近街中で見かける奇抜な看板を掲げたパン屋、それがその人のプロデュースらしい。どんな人かと画像検索してみたら、派手な格好でサングラスに山高帽。なんだ、この既視感は。まるでプロレスの悪徳マネージャーだ。往年の将軍KYワカマツ(覆面レスラー・ストロングマシーンのマネージャー、現芦別市議)みたい! 凄くいい! こうでなくちゃっ!! 右手にムチ、左手に拡声器。ベーカリープロデューサーはきっと店内を大声でアジりながら、新規のパン屋にどんどんパンを焼かせるのだろう。そしてドンドン増殖しつづけるマシーン軍団(パン屋)。また増えた! また新しいのを連れてきた! マスク一枚ワンショルダーのタイツ(独特なネーミングのその看板)をまとっただけで、誰でもマシーン軍団(奇抜なパン屋軍団)の仲間入りだ。子供たちは翌日学校で「また増えたねー、マシーン(パン屋)!」「アレ、中身だれだろうね!?」「こないだ潰れた角の金物屋さんじゃないかなー?」と盛り上がること間違いなし。まさにパン界の「戦う金太郎飴集団」に「地獄のお茶の水博士・悪の正太郎君」……「そんなことしてると猪木が黙ってないべっ!」といとこのお兄ちゃんが言ってたな……。

 子供の頃はプロレス(パン)のことを考えるだけで時間がドンドン経っていった。目の前には甘ーい牛乳と安い食パン。あれば甘食。そうだ、甘食を買いに行こう。一番安いやつ。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

週刊朝日  2021年6月18日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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