先を心配しながら準備するのは全く同じです。キャンバスを前にしてさえ、何を描くのか決まっていないことが多いです。つまりテーマが見つからないのです。しかし、待てよ、テーマなんて森羅万象全てがテーマじゃないか、だったら、何でもエエ、とひらき直って、その時、頭に去来する「何か」をテーマにします。次はその表現です。絵でいえば様式です。世の中にオリジナルなど存在しないので過去に誰かの描いた表現を借りちゃいます。誰も描かない独自なものを、という意識は捨てちゃいます。すると気持ちが急に楽になります。テーマ(主題)も表現(様式)も捨てた! 考えたり努力する必要がこの時点でなくなります。すでにあるものを引用(パクる)すればいいのです。ピカソがベラスケスやマネをパクったように。

 次は目標ですね。目標は目的のようにピタッとピントを合わす必要がないので、目標はぼんやりでいいのです。最初から目標にピントを合わすと、目標が目的に変って、何とか達成感をと自分を追いつめます。すると結果ばかりを考えます。目的=結果です。シンドイです。何だか大義名分に縛られて、何とかのためにやらなきゃということになって、自由が奪われてしまいます。自由が奪われるということは遊びがないということです。物を作る核になるものは遊びです。目的=結果の構図にガンジガラメです。遊びがないということは快楽もないということです。

 僕は人生に目的などないと思っています。もしあるとすれば遊びです。人間は人生を通して遊ぶためにこの世の中に生まれてきているんです。その遊びを忘れてしまうと、わけもわからぬ目的達成のために苦しみます。芸術には本来、目的などありません。何々のために芸術を、なんてチャンチャラオカシイです。そんな真面目な芸術なんて堅苦しくて面白くもないです。金持ちのアイドルになるだけです。

 芸術なんてタカが芸術です。腹がへったからといって絵具を舐(な)めたり、キャンバスを齧(かじ)ったりできません。鮎川さん、そのくらい気軽に、タカがナントカヤ、位に軽く考えた方が、思いもしない面白い仕事ができるんじゃないでしょうか。どうせ皆んな死ぬんやから。ほどほどでエエノンチャウか。来週はコロナのズッコケ、ワクチン接種体験記を書きたいと思います。ホナまた来週。

週刊朝日  2021年6月18日号