「競技を知ってもらわないことには、支援先もスポンサーも見つからない。だから選手にとって競技の知名度を上げることが第一。五輪はマイナー競技にスポットライトが当たる貴重な機会で、その存在は非常に大きい」

 五輪の視聴者は世界40億人とも言われる。普段、テレビ放送がほとんどない競技のテレビ露出の機会が失われるのは大きな痛手だが、それは競技者に限らない。

「国内外競技団体の死活問題にもつながる」と指摘するのは、五輪研究で知られる東京都立大・武蔵野大客員教授の舛本直文さんだ。

「国際オリンピック委員会(IOC)は収入の約90%を各競技の国際競技連盟(IF)などに分配しています。それが国内の競技連盟(NF)に強化費、補助金といった形で流れる。それがなければ活動の持続が厳しくなる団体は多いでしょう」

 分配は五輪採用種目に限られる。13年に、レスリングが五輪種目から外れる候補に挙がったとき、国際レスリング連盟(当時)は、より観客がわかりやすいようにルール改正をした。なりふり構わぬアピールで五輪種目存続を目指したのは、分配金が得られなくなるのを避けるためだ。競技連盟にとって大きな収入源だと舛本さんは続ける。

「昨年の五輪延期によって、IOCからの分配金はなかったはず。五輪が中止となると、IOC収入の約70%を占めている数千億円ものテレビ放映権料がなくなり、分配金も減ります。組織の人件費などが払えず、倒産するIF、NFが出るだろうと言われています」

 選手個人の人生、競技団体の存続を左右する五輪開催の可否。はたしてどちらに転ぶか。(本誌・秦正理)

週刊朝日  2021年6月18日号

著者プロフィールを見る
秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

秦正理の記事一覧はこちら