水野:平成の構造改革は資本家のみが成長する新自由主義的な仕組みとなり、結果として「貯蓄残高ゼロ世帯が2割」という現在のゆがみを生んでしまいました。企業の内部留保金も約475兆円に及びます。このうち被雇用者の労働生産性に対して未払いだとみなされる額が、30兆円ほど。しかも銀行預貯金の利潤率低下で、本来なら預金者が受け取るべき110兆円も未払いのままです。

 にもかかわらず、新たな預金者に対して紙の通帳を発行する際、「手数料を千円取る」とか言い出しました。セコイですよね。銀行までもが預金者から資本を蒐集(しゅうしゅう)し始めるという、ものすごくおかしな世の中になってしまっています。まずはこの、「140兆円返還運動」から始めてみてはいかがでしょう。

古川:具体策をありがとうございます。歴史から学べることは、不安や不平等を放置すると、気づいたときには戦争、という大惨事となる可能性です。未来を思いながら過去を思うことが肝要です。

(構成/大場葉子)

磯田道史(いそだ・みちふみ) 1970年、岡山県生まれ。国際日本文化研究センター教授。慶応義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。著書に『歴史の読み解き方』『無私の日本人』など。

古川元久(ふるかわ・もとひさ) 1965年、愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。96年、衆議院議員選挙初当選。以降8期連続当選。著書に『財政破綻に備える』など。

水野和夫(みずの・かずお) 1953年、愛知県生まれ。法政大学教授。早稲田大学政治経済学部卒。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。著書に『資本主義の終焉と歴史の危機』など。

週刊朝日  2021年6月11号より抜粋