古川:確かにそうですね。今春、水野さんと共著で刊行した『正義の政治経済学』(朝日新書)でも述べましたが、ここ30年ほどの世界のグローバル化やフラット化の弊害が、先祖や地域社会のつながりを希薄にさせました。「ヒト・モノ・カネ」という言葉に象徴されるように、人間と無機物の安易な同等化が、文化や民族の豊かな違いを軽んじてしまったのです。ここで思い出すのが、磯田さんの恩師の歴史人口学者、速水融(あきら)先生の視点です。「第一系列」と「第二系列」で世界を捉え、旧古代文明社会である中国やインドという前者と、資本主義を経験した西欧や日本という後者に分けて、それぞれの可能性を追究されました。今こそ、両者の本質をより高い次元に引き上げ、いわば「第三系列」という新しい社会をつくっていくことが日本の役割だと思います。

水野:賛成です。歴史において、世界を一変させた天才にポーランドの天文学者、コペルニクスがいますよね。彼は、16世紀に無限の宇宙論を唱え、当時の世界観を根底から覆しました。ローマから遠く離れたポーランドだったからこそ、真理を発見できたのではないでしょうか。

 21世紀は日本がコペルニクスとなって、正否を見定める存在として世界に貢献していくのが望ましいでしょう。たとえ、「今のままでいいじゃないか」と資本家が主張しても、「白は白」「黒は黒」と正義を唱える立場です。そもそも経済学は、「人類救済」の学問でした。道徳や倫理に基づく領域です。世界から尊敬される国になるためには、正義の経済学が必要です。

磯田:すると「配分」の問題に行き当たります。人工知能の新経済の時代。格差拡大は必至です。日本も思い切った税制改革と給付の新設で、未来型の配分体制を作らないといけない。30年前のはやり言葉「構造改革」。あれは日本の変えるべき所を変えたのでしょうか。

古川:平成時代、真に必要な構造改革は先送りされたと思います。それこそ「改革はなされた」と見立てられただけで。しかし令和になり、これ以上の先送りはできません。

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