左から、磯田道史さん、古川元久さん、水野和夫さん (c)朝日新聞社
左から、磯田道史さん、古川元久さん、水野和夫さん (c)朝日新聞社

 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本社会が抱える問題が顕在化している。どうすれば変えられるのか。歴史学者の磯田道史さん、経済学者の水野和夫さん、衆議院議員の古川元久さんが具体策を提示する。

前編/感染対策の遅れは「『見立て』の習性」 日本人の欠点を歴史学者らが指摘】より続く

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水野:日本は先頭を走る誰かを着々と追いかけ追い抜くことが得意でしたから、80年代くらいまではそれで通用していたんですね。明治維新しかり、トヨタ自動車独自の「かんばん方式」しかり。ですが、80年代後半から時代の変化に適応できていない面がある。いわゆる世界の工業分野でトップに躍り出てしまったからなんですね。目標を失ったわけです。

 そのとき日本は、近代社会を塗り替える理念を打ち立てるべきでした。トップに立った時点で、それまでの成長社会を超える哲学を世界に向けて宣誓する。たとえ大風呂敷でもいいから、これからの成熟社会を生きる信条であり、「私たちはこう生きる」という表明を堂々とすればよかったと思うのです。

磯田:日本が世界一になった当時驚いたのは、企業や個人がこぞって土地投機を始めたことです。鎌倉武士と同じ行動で、これは経済人類学的に見れば、何百年後かにお笑いとして語られるのではないかと(笑)。

水野:その通りです。土地しか信じるものがなかったということですね。地価は2480兆円まで上がり、現在1230兆円を失っています。

古川:稲作文化による土地への執着が、それにも関係しているのではないでしょうか。「一所懸命」という言葉があるくらい、日本人は土地に対して生産性の原点だという見方を持っていますから。

磯田:「生きかはり死にかはりして打つ田かな」という村上鬼城の俳句がありますね。幕末から昭和を生きた俳人の句です。何百年も、同じ田んぼを同じ係累で受け継ぐ人々が、子孫を残し、その遺伝体質の先に今の我々がいます。政府にしても国民にしても、自分たちは安心感の上で力を発揮できる習性だ、と認識する必要があります。例えば、ベーシックインカムなど最低限のセーフティーネットをまず整える。次に世界に向けてマニアックな日本の経済・技術・活動を発信していく。安心感なくして成長なし。幸福感なくして経済に意味なし。政治の目標を「国民の安心感・幸福感」に設定することです。

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