ワクチン接種がまだ受けられなかったり、緊急事態宣言で休業を余儀なくされたり、コロナ禍の不安な状況が解消されない中で五輪どころではない、という意見は理解できます。

 それでも五輪代表は開催を前提にトレーニングを続ける必要があります。感染防止に配慮しながらルールに従って活動しています。競技者としてできることを精いっぱいやるというのは現状ではわがままで、五輪を中止すべきだと主張することだけが正しい、と匿名の人から批判を受けるのは、つらいことです。

 2000年シドニー五輪から数えて、コーチとして6回目の五輪出場になります。過去の五輪の前とは違って、胸を張って「日本の代表」と言いにくい状況がある、と感じています。

 五輪2カ月前の時期といえば、五輪代表に選ばれた晴れがましさを胸に海外の合宿に出て、できるだけ情報を遮断してトレーニングに集中していました。今回は国内にいて、コロナ対策など社会の出来事にアンテナを張っているので、心が休まる時間が少なくなっている気がします。おそらく選手もそうでしょう。

 そんな中でトレーニングを進めて、どのように五輪で選手たちの力を引き出すか。水泳指導者としての力量が問われています。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

週刊朝日  2021年6月4日号

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平井伯昌

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平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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