その、昨年中止になった舞台が1年の時を経て、ついに上演されることになった。日本最古の舞台芸術である「能」の構造を借りて、建築家のザハ・ハディドをシテ(能楽用語で“主役”)とする「挫波(ザハ)」と、高速増殖炉もんじゅをめぐる「敦賀(つるが)」の2演目からなる「未練の幽霊と怪物」。国際的に活躍する劇作家・演出家の岡田利規さんによる音楽劇だ。

「去年、この舞台が中止になってからも、リモートで稽古を続け、その成果の一部をオンラインで上演しました。観た人から、『小さくてよくわからなかったよ』と言われたこともありました。でも私にとってあのオンライン劇は、とても実験的でおもしろい体験になった。目の前にお客さんはいませんでしたが、ちゃんと演じる快楽があったんです」

リモートの芝居はレトルト食品

 社会や歴史が生み出した“未練の幽霊と怪物”を可視化した、岡田さんの幻想的な戯曲は、読売文学賞を受賞した。

「でも、だからといって、『じゃあこれからも演劇はリモートでいいじゃないか』という意見には絶対反対です。どんなにたくさんカメラを入れて撮った芝居があっても、食べ物にたとえるならそれはレトルトのようなもの。行列のできるラーメン屋さんのラーメンをレトルトで買ってきて、家で食べたとして、『さすが名店、おいしかった』と実感できると思いますか?」

 どんな舞台でも、「家で観たなら、それは舞台を観たとは言えない」と片桐さんは主張する。

「コロナ禍では、稽古が終わった後の毎日の食事も、テイクアウトに頼っています。でもどんなに名店のテイクアウトでも、心からおいしいと思ったことはありません。演劇も同じ。劇場で観るのとでは、そのくらい違いがあるんだよということをわかってぇ~!! ……というのが、今の私の心の叫びです(笑)」

 無類の映画好きである片桐さんにとっては、演劇だけでなく映画も、家で観たものを「映画を観た!」とカウントされることに抵抗がある。ただ、コロナ禍で新作映画を観る機会が減ったことで、新たな発見もあった。

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