SPACの運営者には、資金が集めやすいように有名な経営者や投資家が入っているケースが多い。著名人やセレブも名を連ねているという。

 こうしたSPACに投資するのは、個人投資家が多いとされる。だからこそ、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「有望な新興企業を期間内に見つけられるかどうか。いかに有望な会社を見つけていくか“目利き”が求められます」と強調する。

 上場したSPACの株価を指数化した「SPAC指数」は、20年10月30日に510ポイントだったが、21年2月17日に940ポイントに跳ね上がった。「ちょっと過熱感はある」(市川さん)ものの、SPACが有望な企業を買収すれば、その株価は短期間で何倍にも急騰し得る。通常の上場企業への投資では、短期で株価が“大化け”する醍醐味(だいごみ)は味わえない。

 とはいえ、SPACがどんな新興企業を買収するのかは投資家にはわからず、見守るだけだ。

 米国では20年6月、水素燃料電池トラックを開発するニコラ・モーターがSPACに買収され、ナスダック市場に上場し、株価が急騰した。ところが、「創業者が話していた技術がうそだったという疑惑が浮上した」(窪田さん)ため株価は急落し、投資家らは被害を受けた。一般的な上場審査があれば防げたとされるだけに、SPAC買収の危うさはつきまとう。

 いったい、日本でSPACは導入されるのか。東証がかつて08年に検討していたものの、課題もあるとして見送った。冒頭の東証トップの発言のように、再び前向きに検討しようとしている。

 ただ、専門家たちからは慎重な見方が根強い。

 黒岩さんは「どれだけ未上場企業があるのか。そもそも創業が米国に比べて少ない。日本は個人投資家が少なく、米国は投資家層に厚みがある。日本は投資対象と市場に厚みがない」と疑問を呈する。「日本には買収を専門に手がける集団が少ない」(市川さん)という点も気がかりだ。

 東証自体も、株式市場として抱える課題を解決しなければならない。

「米国は成長企業による“新陳代謝”がある。一方、日本は東証の独占状態で市場間の競争原理が働いておらず、米国と構造的にかなり違いがある」と原田さん。

 SPACの導入には「まず市場再編を何年かかけて整備し、その後の話になる」(同)とみられている。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年6月4日号