ワクチン接種に使われる注射器 (c)朝日新聞社
ワクチン接種に使われる注射器 (c)朝日新聞社
ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相 (c)朝日新聞社
ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相 (c)朝日新聞社

 専門家たちに強く迫られたことで当初の方針を覆し、慌てて北海道、岡山県、広島県への緊急事態宣言発出に踏み切った菅義偉政権。感染の波が全国を覆う中、頼みの綱のワクチン接種もなかなか進んでいない。その遅れがウイルスの変異を招き、重大な結果につながる恐れがあるという──。

【写真】ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相

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 海外と比較して、日本の新型コロナウイルスワクチンの接種は遅々として進まない。1回以上接種を受けた人の割合は5月13日時点で3.2%と、先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)37カ国中でも最低。医療従事者約480万人への接種も、4月末時点で2回目の接種を終えた人はまだ22%程度だ。

 ワクチンの供給が限定的だったこともあるが、政府は医療従事者への接種も進まぬうちに、高齢者の接種を同時並行する形で開始。菅義偉首相は「1日100万回接種」をぶち上げ、7月末までに完了させる方針を打ち出した。ところが、一部の自治体が期限内の完了は困難と回答すると、菅首相は記者団に「ショックだった」と吐露。東京五輪開催を照準にした目標設定が、無理筋だったことは明らかだ。

 精神科医で、老年内科医でもある和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授が怒りを込めて語る。

「政府が真っ先にやるべきだったのは、医療従事者と入院患者を合わせた約600万人分のワクチンをあらゆる手段で確保し、一気に接種することでした。そうすれば、感染や院内クラスターを恐れる医療スタッフをコロナ治療の戦力にすることができ、医療逼迫の回避につながります。政治的メッセージなのか、高齢者への接種を前倒しで始めましたが、供給量が足りないから予約も取れず、逆に高齢者を不安に陥れているだけです」

 5月7日時点で、ワクチン接種後の死亡例が39件あるのも気になる。重いアレルギー反応であるアナフィラキシーと判定されたのが107件(5月2日時点)。和田医師が勤務する病院でも、特に2度目の接種後、約1割の人に38度以上の発熱が起きているという。約3600万人いる高齢者に安心してワクチンを打てるのか、副反応の検証のためにも医療従事者への先行接種が不可欠だと指摘する。

 不条理は、医療従事者の中での接種順にもある。和田医師がこう続ける。

「地域医療の最前線に立ってコロナ患者を診ている病院よりも、富裕層相手の病院のスタッフのほうが先にワクチンを受けているというめちゃくちゃな現実がある」

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