日本経済全体は、新型コロナで傷ついた。20年の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年比4.8%減となり、リーマン・ショックの影響があった09年の5.7%減以来、11年ぶりにマイナス成長となった。年間を通じて、個人消費や企業の設備投資、住宅投資などが軒並み悪化した。

 新型コロナが直撃した20年4~6月だけをみると、四半期ベースでリーマン時を上回る戦後最大の下げ幅を記録したことになる。

 帝国データバンクによると、20年の企業の休廃業・解散件数は約5万6千件で、19年の約6万件を下回った。政府や金融機関による資金繰り支援や給付金などで前の年よりも低く抑えられたものの、支援が絞られれば、息切れする会社も出てくると心配されている。

 先行きへの不安感の表れともいえるかもしれないが、皮肉にも、企業の合併・買収(M&A)仲介サービスも仕事に追われた。

 業界大手の日本M&Aセンターによると、事業の売り手側と買い手側が結んだ契約件数は20年末時点で前年の1.3倍に増えた。中小企業の相談が目立つという。

 ただし、「必ずしも後ろ向きの話ばかりではない。事業環境の大きな変化に直面し、新しい成長戦略を探るなかで選択肢の一つとしてM&Aをポジティブに考える経営者は多い」(同社広報担当者)。

 もちろん、他社の力を借りずに事業を続けるうえでも、コロナ禍で数々の“ヒント”を得られている。

 例えば、「負け組」とされた葬儀業界。インターネットを通じて引き受ける全国一律料金の葬儀サービス「小さなお葬式」を運営するユニクエスト(大阪市)は、コロナ禍で通夜や告別式を行わずに火葬する「直葬」の注文や相談が増えたことを実感した。感染予防の意識が高まったことで、遺族らが参列する一般的な葬儀とは違う形も認知され、今後のビジネスチャンスに示唆を与えた。

 新型コロナで加速した暮らしの変化は、とどまることはないだろう。不自由を強いられることの多かった消費者も、企業の創意工夫で生まれた新しい商品やサービスを使って、なるべく楽しく快適な暮らしを送れるように努めたい。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年5月21日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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