60代女性が被害に遭ったのは昨年11月。魚介類の販売業者を名乗る男から電話があり、「コロナ禍で地元の観光客が減って困っている。過去にウチの商品を注文してくれた方々に、お得な魚介類の販売を案内している」と持ちかけられ、つい同情して1万5千円のセットを注文してしまった。

 電話を切った後、過去にその業者からの購入はなかったことがわかり、注文をキャンセルしようとしたが、担当者名も連絡先も聞かなかった。商品は代引きで配達されたという。

 同様の被害を60代男性も報告している。過去に魚介類を購入したことがある業者から電話があり「コロナの流行で経営が苦しい。商品を買ってほしい」と頼まれ、人助けになるならと、2万円の品物を注文。しかし1週間後に届いたのは、痩せたカニの脚2本とかす漬けのサンマ数切れなどで、まったく値段に見合わない商品だった。クーリングオフしようと業者に電話をしたが、反応がないという。

 人々の不安に乗じて金品をだまし取る詐欺グループは常にニュースに敏感なのだ。詐欺犯にとってコロナ禍は人の不安をあおるチャンスでしかない。

 警察庁によると、2020年の特殊詐欺の被害総額は前年比で12%減ったが、検挙件数は8.2%増の7373件で過去最多だった。今年に入ってもその勢いは衰えていない。

 たとえば広島県では今年3月までに50件超の特殊詐欺被害が確認されており、被害額はすでに去年の倍以上の1億円にのぼる。警察庁によると、昨年の特殊詐欺被害者の85%以上が65歳以上で、今年も依然として高齢者の被害が高水準で発生しているという。

 詐欺グループの犯行を後押しする社会状況はまだほかにもある。コロナ禍の影響でお金に困っている人が多いことだ。

 多田氏はこう指摘する。

「コロナ禍でクビになったりバイトの時間が減ったりして収入が減り、お金のために詐欺の手先になる人は増えています。驚いたのは3月末に逮捕された特殊詐欺の受け子が、70代の女だったことです」

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