期せずして二つのタイプの医師を「欲張ってできました」というが、

「私たちに近い年齢の人たちを対象にしていますから、あまり考えなくても自然に物語に入っていけました。ただ、在宅医療には、何がよくて何が悪いといった結論がないんですね。とくに、最後に近づくにつれて、ドクターとして、ひとりの娘として、苦しむ父親の最期を迎えつつある姿にどう向き合ったらいいのか、演じる私も大変でした。その苦悩が、役に出たかなと思っています」

 演じてみて、救急医療にせよ終末期医療にせよ、これまで医師の仕事や役割を形だけでとらえていたことを、あらためて認識したという。

「自分の死であれ、家族の死であれ、死を見つめるのは、苦しみ以外のなにものでもないかもしれません。現実の死でも物語の中の死でも、誰もができれば目を背けていたい。演じていてもそうでした。でも、死が避けて通れないものである以上、死を避けることに苦心するよりも、日ごろから死を冷静に考えていくことが、今をよりよく生きることにつながるのだと思えるようになりました」

 このコロナ禍では役作りのために病院で見学させてもらう予定が中止になるなど、大きな制約を受けたが、それ以上に医療や介護に携わる人の大変さもあらためて思った。(由井りょう子 構成/長沢明)

吉永小百合(よしなが・さゆり)/東京都出身。小学6年のときラジオドラマ「赤胴鈴之助」でデビュー。1959年「朝を呼ぶ口笛」で映画初出演、以来、「キューポラのある街」「愛と死をみつめて」などでスターに。自らプロデュースも手がけた「ふしぎな岬の物語」、「最高の人生の見つけ方」ほか出演作多数。かたわら原爆詩の朗読などを通して戦争、核について問題を提起、平和への思いを発信し続ける。

>>【後編/吉永小百合「“転んだらダメ”をテーマに」 自宅周辺のウォーキングが日課】へ続く

週刊朝日  2021年5月21日号より抜粋