ほかにも、厚労省のコロナ対策本部職員だと名乗り、「『あなたは濃厚接触者のようだ』と言い、行動履歴や家族構成を問われた」という通報や、「特別定額給付金の代理申請業務を行うという業者に個人情報や口座情報を聞かれた」という届け出も消費生活センターには寄せられているという。狙いは個人情報を盗み出すことにあるのは間違いない。

 多田氏は「こうした新型コロナウイルスに関係する詐欺電話は増えてくるでしょう」と予測している。

 というのも、ワクチン接種はこれから本番を迎え、2回ある。1回目が終わったころには、「副反応はありましたか?」「接種後の体調はどうですか?」などと自治体職員になりすまし、電話をかけやすい状況になる。

「接種方法も自治体ごとにバラバラなので、特にネットが苦手な高齢者は、情報がない不安と焦りでだまされやすい環境に置かれています。緊急事態宣言が長引けば、高齢者は用心で家にこもりがちになり、電話を受けてしまうケースも増えてくるでしょう。詐欺集団はそこにつけこんでくるわけです」(多田氏)

 被害がワクチン優先接種代の数万円では済まないケースもある。ワクチン詐欺の電話中に、詐欺犯が「これはいける」と思えば、ワクチン代以上の金額をだまし取ろうとしてくるからだ。

 多田氏は続けて言う。

「10万円で優先的にワクチン接種できると言って接触してくる詐欺犯は、単に10万円を引き出そうとしているわけではありません。10万円の支払い手続きを名目にキャッシュカードをだまし取ろうとしたり、ATMに誘導して多額のお金を送金させたり、コンビニで電子マネーのカードを買わされたりする可能性もあります」

 しかも詐欺犯は一度だました相手から繰り返しだまし取ろうとするため、「犯行の入り口である『予兆電話』の段階でしっかり防いでほしい」。

 ワクチン詐欺電話のように、警察や公共機関、親族を名乗って個人情報を聞き出そうとする電話は予兆電話と呼ばれる。詐欺グループは、予兆電話で得た情報を利用して、特殊詐欺の本番ともいえるオレオレ詐欺などに移行していく。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2021年5月21日号