「私は4人姉妹の末っ子なので、3人姉がいるんですが、姉の一人が、絶対に大変なはずなのに、頑張っていることを口にしない、すごく我慢強いタイプなんです。今回は、その姉のことを何度も思いました。同じ親から生まれていても、きょうだいの性格って全然違いますよね。ある姉は、『あれが欲しい』ってはっきりと口に出すけれど、何でも我慢してしまう姉は、つらいことを率先してやるような人で。明るいけれど、妙に辛抱強くて、つらいことを口に出さない。でもなぜその姉が頑張るかっていうと、理由があって。すべては子供のためなんです。家族の幸せのために頑張っている。良子も姉も、大変なことを背負っているからこそ、頑張れるのかもしれないなって思いますね」

 何のために頑張るのか。その理由がはっきりしている人は強くたくましい。

「結局、“誰かのため”に何かをすることが、頑張って生きることにつながるのかな」

 そう自分に言い聞かせるように呟いた。

 そんな尾野さんは、コロナ禍で、里帰りをしたい欲が高まる一方だとか。

「若い頃は、親元に帰るより友達といたほうが楽しいって思ってたけど、大人になると何かあるとすぐ実家に帰りたくなりますね。特にコロナ禍で、親やきょうだいのありがたみをしみじみ感じました。親が自分にやってくれたこと、姉がやってくれたことがいかにありがたかったか。上京してしばらくは、地元の名産を段ボールにぎゅうぎゅうに詰めて送ってくれたのに、当時の私は、『こんなに送っても食べられないよ』みたいな、薄情な娘でした(笑)。今なら絶対に一つ残らず大事に大事にいただきます。コロナ禍になって、“ありがたい”という感情が濃くなった気がします」

「帰ったら親孝行はするんですか?」と聞くと、「何にもしないです。むしろ、『あれやって』『これやって』って親を働かせます。とにかく、母の作ってくれるご飯がエネルギー源なので」とあっけらかんと言い放つ。そんな尾野さんが頑張る理由は、奈良の家族の喜ぶ顔にあるようだ。(菊地陽子 構成/長沢明)

尾野真千子(おの・まちこ)/1981年生まれ。奈良県出身。97年、河瀨直美監督「萌の朱雀」でデビュー。2007年、「殯の森」がカンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ。NHK連続テレビ小説「カーネーション」(11~12年)、「最高の離婚」(13年)、大河ドラマ「麒麟がくる」(20~21年)、藤井道人監督「ヤクザと家族」(21年)などに出演。瀬々敬久監督の「明日の食卓」は5月28日公開。

週刊朝日  2021年5月7-14日号より抜粋