※写真はイメージです (GettyImages)
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 文芸評論家の斎藤美奈子氏が数多の本から「名言」、時には「奇言」を紹介する。今回は、『日本が壊れる前に』(中村淳彦・藤井達夫、亜紀書房、1540円)をとりあげる。

コロナがなければ、中年男性が死ぬはずだった

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 新型コロナウイルス感染症の流行からすでに1年。先が見えない状況の中、生活困窮者や自殺者は増え続けている。

『日本が壊れる前に』の副題は「『貧困』の現場から見えるネオリベの構造」。ともに団塊ジュニア世代に属するノンフィクションライターの中村淳彦と政治学者の藤井達夫が日本社会の危うさを語り合った対談だ。

<コロナ禍がこれだけ大きな打撃になったのは、この社会のもっとも脆弱な部分を突いてきたからでしょう>(藤井)という認識の下、特に「脆弱」とされるのは中年男性だ。
<中年男性に危機を覚えたのは、介護現場に参入する中年男性が、ずば抜けて「使えない」ということでした>(中村)

 この20年、介護職はポスト工業化で失職した人の受け皿として機能してきた。ところが母や妻などにケアされる一方だった中年男性はケア労働の現場では<本当に役に立たない>(同)。

 ネオリベ社会は厳しい競争社会である。問題が多いのは事実だが、若者たちはすでにネオリベモードに舵を切っている。ところが40代後半を迎えた団塊ジュニア以上の世代は昭和的メンタルを引きずっていて潰しが利かない。ゆえに企業は女性や若者しか雇わなくなり<これからは団塊ジュニア男性の貧困が起きてくる>(藤井)。

 ゾッとするのは中年男性の貧困は社会問題化するとの指摘である。<彼らが発生源となってSNSも荒れまくっている>(中村)。彼らがSNSでマウンティングやバッシングに励むのは<リアルな世界ではもう勝ち目はない。だからSNSで戦っているのでしょう>(藤井)。

 風俗で働く女子大生の増加など、女性の貧困はコロナ前から限界に達していた。一方、<中年男性ってこんなにポンコツなのか>(中村)と評される人々こそが次なる貧困のターゲット。この章のタイトルは<コロナがなければ、中年男性が死ぬはずだった>。200万人の団塊ジュニア世代は必読だろう。

週刊朝日  2021年5月7-14日合併号