冒頭の田中さんも、「『打ちたくない』なんて、非難されそうで周囲には言えない」と眉をひそめる。「ワクチンを打つことが努力義務といったムードは良くない」と宮坂教授も指摘する。

「打つのが心配だという人は、当面は無理せず、打たないでいい。厚労省をはじめ、国の説明は曖昧な表現が多く、ワクチンのメリットやリスクについても発信が不十分。万が一、ワクチン接種によって健康被害が生じた場合の措置も、アメリカのような『賠償』ではなく『救済制度』。国が打つように言ったのに、何かがあったら『賠償ではなく救済しましょう』という措置なのはおかしい。接種は決して強制されるものではない」

 一方、中国では現在、「副反応の心配もゼロではないし、国内のコロナ禍も落ち着いているから」とワクチン接種を受ける必要性を感じない市民も少なくないという。その中国で、中国のシノファーム製ワクチンを打ったのが、西日本新聞の坂本信博さん(中国総局長・48)だ。注射の痛みも副反応も特になく、無事に接種を終えたという。ワクチン接種後もマスク着用や他人との身体的距離を取る対応が必要で、入国時などにPCR検査や隔離生活を求められる点も変わらない。だが、行動履歴や感染リスクがわかるスマホアプリで、公共施設や商業施設に入館する際に提示が必要な「健康コード」に「ワクチン接種済み」の表示が出るようになった。

「今後、特に公的な行事や会議などで、ワクチン未接種のジャーナリストの取材を制限する可能性もあるのでは。ワクチン接種済み証明が必要になる取材が増える可能性も、接種に踏み切った理由の一つです」(坂本さん)

 アメリカでは、ワクチン接種完了から2週間以上経った人同士なら屋内でマスクをせず、対人距離も気にせず交流できるとする指針が発表された。

 日本のワクチン接種は、まだ始まったばかり。ワクチン接種によって、どんなふうに生活が変わってくるかはこれからの話だ。接種はあくまで任意であるからこそ、自分なりの判断が必要だ。打つか打たぬか──決断の時が迫っている。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2021年5月7-14日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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