北海道や東北地方の内陸を結ぶ路線などが目立った。区間を確認してみると、山間部を走っているケースが多い。

 芸備線は、岡山県の備中神代駅と広島駅を結んでいる。このうち、広島県北東部にある東城から備後落合までの25.8キロの区間が輸送密度で11人だったことになる。本来であれば鉄道どころか、「タクシー会社も維持できない」(板谷さん)ほどだ。

 地方の鉄道経営が厳しくなったのは、自動車の普及や道路の整備で利用者が奪われ、少子高齢化によって沿線住民も減ったためだ。

 旧国鉄を分割民営化した1987年当初から、問題だった赤字路線の多くが先送りされた。とくにJR北海道、四国、九州の各社は赤字路線を多く抱え、「“自立”が無理だとわかっていた」と、神戸国際大学の中村智彦教授は指摘する。

 近年は、訪日外国人客(インバウンド)など観光客に注目されていたが、コロナ禍でこうした利用も激減。「沿線に温泉があったり、終点が観光地であったりするところはまだいいが、沿線に観光資源など何もないところは展望が見いだしにくい」(中村さん)

 赤字を垂れ流すローカル線が、別の黒字路線の利益によって維持されてきたのは前述した通りだ。

 しかし、赤字ローカル線の問題は、黒字路線からの内部補助が難しくなったというだけにとどまらない。

 鉄道会社として単年度の収益を安定させるのはもちろんのことだが、老朽化した設備の補修や更新など、鉄道事業ならではの必要な投資までもが食いつぶそうとしているのだ。

 例えば、本県にある旧国鉄の高森線。鉄道が通る南阿蘇村の渓谷にかかる第一白川橋梁(166メートル)は、16年に発生した熊本地震で橋脚を支える地盤が崩れ、橋の中央部が膨らむなど大きく損傷した。発生当時、橋は建設から約90年が経過していた。運営自体はすでに第三セクター方式で南阿蘇鉄道が引き継いでいたものの、総事業費約40億円を投じて新橋を建設しなければならなくなった。

次のページ