「『日本で歌手として10年以上のキャリアがあって、日本語も英語も韓国語もできて、歌のテクニックがあるんだから。もっとそれを誇りに思ったほうがいいよ』って言ってくれた友達がいて、目から鱗でした。私はそれまで、『このサウンドがカッコいい』とか、『洋楽っぽい曲しか歌いたくない』とか、『自分が~』『自分は~』って、自分にも周囲にも、ずっと自分の理想ばかり押し付けていた。でも、その子の一言で、自分の日本でのキャリアは、もっと讃えてあげてもいいものだと思ったし、自分が歌ってきたJ‐POPの良さにも気づけたんです」

 それまでは、自分のためだけに歌ってきた。でも、リスナーも同じような壁にぶつかっているのなら、これからは、そういう人のために歌えばいい。みんな同じ人間、みんな一緒なんだ。そんなメッセージを、歌で代弁していきたい。「何のために歌うのか」が初めてクリアになった瞬間、大人の階段を一段、上がれた気がした。

 渡米から2年後に帰国。2019年には、友人である城田優さんの誘いで、ミュージカル「ピピン」に出演し、初めてのミュージカルながら読売演劇大賞優秀女優賞も受賞した。表現者として成長を遂げる中、最近はまた歌に対する意識に変化が訪れたらしい。

「歌に関して、“次の段階にシフトできたかな”という瞬間は、これまでにも何回かあるんです。ただ、最近の変化としては、これまでは“こんなふうに歌いたい”というテクニックのほうでいっぱいいっぱいだったのが、最近は、“人を楽しませたい”ってことにフォーカスするようになった」

 それは、コロナ禍によって気づけたことでもある。

「1年前は、ライブも全部中止になって、楽しみにしていたミュージカル(『ヘアスプレー』)も中止になって、正直、最初の頃は落ち込みました。仕事にやる気も起きないし、ただ食べて、飲んで……。プータローみたいな状態だったんです(笑)。でも、歌手仲間に誘われて、『医療従事者の人に歌でエールを送ろう』というプロジェクトなどに参加するうちに、少しずつ再生できたというか……。歌の力や、人のつながりの素晴らしさを感じて。私自身が音楽に励まされたんです」

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